Special Interview vol. 15
★では、そろそろ今回、京都と東京で公演を打つ『Dansaq』についてお聞きしたいと思います。クラシック音楽がベースになった舞台ですが、こういうスタイルのものを始めたのはいつ頃からですか?
2000年ですね。最初の頃は、フランスのカルテットとやったり、アメリカのカルテットとやったり。海外公演のたびにオリジナルの楽団を連れて行くのは予算的にも難しいので、公演を依頼されるたびに現地のカルテットやオーケストラと組むことが多いですね。
今回の『Dansaq』もクラシックベースにはなりますが、演奏してくれる『Cuarteto Latinoamericano(カルテット・ラティーノアメリカーノ)』という弦楽四重奏団がメキシコの方達なので、ラテンアメリカの曲を中心に選曲したショーになります。
★『Cuarteto Latinoamericano』と一緒に行う公演が『Dansaq』ということになるわけですか?
そうです。ただ、その公演ごとに内容は変えています。彼らとは2005年から一緒にやり始めて、海外でも何回か公演をやってるんですが、今回の日本公演で初めてやるナンバーもありますし、同じ曲でもアレンジや構成を変えたり。

実は、京都と東京ではちょっとプログラムも違うんです。今回呼んで下さった主催者の方のご希望もあって関西では私のソロが入るんですが、東京では入りませんし。東京での公演が、今までの『Dansaq』により近いものになるかと思います。
★『Cuarteto Latinoamericano』は、アメリカやヨーロッパでは大変人気の高いカルテットだそうですね。
そうなんです。残念ながら日本を含め、アジアでは知名度がないんですけど、世界中にファンがいる素晴らしいアーティストで、CDも60枚以上リリースしていていますし、エイトル・ヴィラ=ロボス作曲の17の弦楽四重奏曲を納めた6巻の CDは、2002年のグラミー賞の最優秀室内楽曲録音分野とラテングラミー賞にもノミネートされているんですよ。
★そんな素晴らしいアーティストとの出会いは?
『Tapage』の定番ナンバーで『SENSEMAYA』っていう曲があるんですね。7拍子の、ものすごく複雑な面白い曲で、南米に行ったら誰でも知ってるようなポピュラーな曲なんですけど、これを最初オーケストラとやってみたらものすごい反響があったんです。
でも、『SENSEMAYA』はとても壮大な曲なので、オーケストラと共演できる公演以外では出来ないとあきらめていたら、日本のCDショップでジャズのCDを探していた時に偶然、アメリカの『Kronos Quartet』という弦楽四重奏団が『SENSEMAYA』を演奏しているCDを見つけたんです。
『Kronos Quartet』のことは私も知っていて、CDも何枚か持っていたんですが、ちょうどその頃に発売された新作CDに『SENSEMAYA』が入っていたんですね。「こんなパワフルな曲もカルテットで演奏出来るんだ、カルテットでもこんな素晴らしい演奏が出来るんだ」と驚きました。
そしてちょうど相前後して、オリビアもニューヨーク・パブリック・ライブラリーで『Kronos Quartet』と『Cuarteto Latinoamericano』のCDをたくさん見つけて、彼らの音楽的な質の高さを知って、すっかり惚れ込んでしまったんです。
そんな経緯があって、それじゃあコンタクトを取ってみようと、私たちが『SENSEMAYA』を踊っている様子を納めたDVDを『Kronos Quartet』と『Cuarteto Latinoamericano』の両方に送ったら、『Cuarteto Latinoamericano』のメンバーが連絡をくれたんです。
★ということは、その時、連絡をくれたのが『Kronos Quartet』だったら、今頃は『Kronos Quartet』と『Dansaq』ツアーをやっていたかもしれない、ということですか?
そうかもしれませんね。
★それにしても、現在は日本を拠点とする藤林さんと、フランス生まれでアメリカで活動するオリビアさん、そしてメキシコ発の弦楽四重奏団。『Dansaq』はまさにボーダレスなユニットですね。リハーサルひとつするのも大変なのではないですか?
そうですね。私もオリビアも『Dansaq』や『Tapage』だけでなく、世界中でいろいろな活動をしていますし、『Cuarteto Latinoamericano』のメンバーもタンゴバンドをやったり、モーツァルトをやったり、ラベルをやったりと、それぞれに多方面で活動しているので、公演の前の日に現地で集合して、翌朝には飛行機でそれぞれの次の仕事がある場所に移動したりという忙しさの時もありますけれど、私とオリビアは振付を創るにあたってとことん話し合いますし、彼らとも必要な時間はしっかりかけて作品づくりをしています。
★従来のタップダンスの舞台とは一線を画した感があるので、一体どんな舞台なんだろうと思っている読者の方もいらっしゃるかと思います。『Dansaq』の魅力をわかりやすく伝えていただくとすると?
まず音楽的には、ラテンアメリカの曲を中心に北インドのカタックなどの理論も織り交ぜて、変拍子満載のリズムの世界を楽しんでいただけるのではと思います。
あと、これは私たちが作品づくりにおいて一番大切にしている点なんですが、作品それぞれに必ずストーリーがあることですね。
先ほどお話した『SENSEMAYA』という曲には少年と大蛇が戦うという詩がついているんですが、それを政府と民衆の戦いになぞらえたり、『炎(ほむら)』という曲では雪女の情念を表現したりしています。

『Cuarteto Latinoamericano』が私たちダンサーの後ろで伴奏をするという形ではなくて、舞台の右と左に並んで、共演者としてひとつの世界を創り上げていくというスタイルも、『Dansaq』の特徴のひとつではないかと思います。彼らの演奏だけを楽しんでいただけるシーンもあります。
★お話をうかがって、ますます『Dansaq』の日本初公演が楽しみになって来ました。今後も国内・海外の両方で活動を続けて行かれるんですよね?
これからも地元・京都などでのレッスンは続けて行きますし、京都や東京などでのクラシックコンサートやジャズライブなど国内でのパフォーマンス活動も広げていきたいと思っています。
海外での活動に関しても、今回の『Dansaq』の日本公演の前にエストニアでの公演やワークショップがあって、来年は『Dansaq』のメキシコ公演も予定されていますし、お話をいただいたらどこにでも出かけて世界中のいろいろな方たちに私たちの舞台をご覧いただきたいと願っています。
★ますます忙しくなりそうですね。
そうなればいいですね。でも、私は求められるところで一生懸命お仕事をさせていただいて、皆さんに楽しいと思っていただけたら、それだけを考えているんです。
確かにタップを優先するために手放して来たものも現実にはたくさんありますけど、“タップのために何もかも捨てて”というのではなくて、人間として幸せな生活を送るために必要不可欠なものがタップなんだと、そういう考え方でやっているので。
人間関係とか、タップよりももっと大事なことはあると思うんですね。それをよりよくするためにタップを与えられたのかなと。私もこれまで生きて来た中で、タップに救われたことが何度もあったので。
★ちょっと抽象的な話になってすみません。藤林さんが理想とするタップはどんなタップなんでしょうか。
タップはコミュニケーションのひとつの手段だと思うんですね。しゃべる代わりにタップで会話する、みたいな。
アメリカにいた頃にマスターたちから学んだのも、“いかに自分という人間を表現するか”ということ。そのために何を磨くのか。大事なのはそこなんじゃないかと思うんです。
プロだったらテクニックを磨くことはもちろん大切なんですけど、私は人間を磨くことがすごく大事だと思うんですね。これはタップダンサーに限らず、ピアニストでもギタリストでも画家でも、あらゆる表現者に共通して言えることですけど。

こう言ったら語弊があるかもしれませんが、すごく難しいことをやってやってやり尽くして、それなのに心に何も響いて来ない、そういうパフォーマンスもありますよね。そして片や、難しいことはほとんどやっていないのに、なんだかわからないけど好きって思えるパフォーマンスもありますし。
単に高く飛ぶとか、早く踏むとか、そういう表面上のテクニックやパワーは、いつか必ず衰えて行くものだし、やっぱり最後に人間の心を揺さぶるものは別のところにあると思うんです。晩年のバスター・ブラウンやジミー・スライドがシンプルなフラップをパパッとやるのを聴いただけでボロボロッと涙が出てきたように。
だから、いいものを見て、いろんな人と話をして、時には悲しい思いや悔しい思いをしたり、そういう経験を通じて人間を磨いて、タップの表現を豊かにして行くことが一番大事なんじゃないかなと思います。
生徒さんにもレッスンの時に、「今日、家に着くまでの間に、きれいだなと思うものをひとつ見つけて帰ってね」っていう類の話や、タップ以外の話をすることがあります。そういう日常の積み重ねが、その人の心を豊かにしてくれると思っているので。
いろいろなものを学んで、消化して、その人ならではの表現が出来るようになったら、それが本当の”本物“だと思うんです。1秒間に何回踏めるか、なんていうのは関係ない。
私もまだまだこれから笑ったり泣いたりしながら人間を磨いて、人の心を揺さぶることの出来るダンサーになれたら、そして生徒さんたちにも私が大切だと思うことを伝えて行けたらと思います。

★ありがとうございました!(→ PART 1へ戻る)









